2016年10月10日月曜日

最後のドライブ

 息子が初めて帰省したのは、入所してから2カ月後でした。
 家の中の破損した部分の修復と、将来同居したときのための耐震工事が必要だった事情もありますが、施設の生活に慣れさせるため、敢えて面会を控える目的もあり、しばらく会わなかったのです。
 耐震工事は、将来同居したときのことを考えて、震災の際でも避難所の生活を極力避けたいと考えたからでした。
 最初の帰省から施設に戻ったとき、施設に対する抵抗感があまりないと感じたため、その後は月に2回のペースで帰省しました。
 夏休みや連休など父親の仕事が休みの場合は帰省の日数を増やしました。
 しかし、夏が近づく頃に、夫婦双方の親が入院することになり、月2回の帰省のペースの確保が難しくなり始めたころから、息子自身も落ち着きがなくなり、以前よりも大声を発するようになってきました。
 息子の好きな公共の交通機関に乗せるのが躊躇されるようになり、散歩でも人込みで大声を発することから、帰省はドライブで過ごすことが多くなりました。
 電車やバスの好きな息子にとってはさぞ不満であったと思います。
 8月の最後の日曜日、夫婦双方の親の退院を考慮して、日帰りの帰省となりましたが、その日が最後のドライブになりました。
 宮ケ瀬ダム、津久井湖、秋川渓谷を回って施設に戻りました。
 「来週はおばあちゃんの退院のお迎えがあるから、再来週迎えに来るね…。」母親は、湖を眺めている息子の体をそっと抱きしめました。
 施設の駐車場に着くと、いつものように、振り返りもせず、入口のボタンを押して施設の中に入っていく息子…。
 その後ろ姿が、私達が見る最後の息子になってしまいました。
 「施設に慣れてくるときには思いがけない行動に要注意。」
 特別支援学校の先生の言葉を思い出しました。
 家の修復や親族のことで、息子を後回しにしてしまった…。
 後悔だけがのこります。


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