原告と被告が事前に提出した書面・意見書・証拠資料の確認や今後のスケジュールについて決められましたが、2時間半の大半は、原告である私達夫婦に対する尋問が行われました。
尋問は事前に提出した陳述書等の各種書面や記録などの証拠にもとづき行われました。
原告弁護団の先生方に続き、被告代理人弁護士からも私達夫婦に対し執拗な尋問がありました。
裁判の争点は、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、過失で息子を行方不明にさせ、高尾山近郊の山中で遭難死に至らしめた、被告の障害者入所施設藤倉学園が、過失は認めたものの、重度の障がいの子供は将来働くことができなかったであろうとして、賠償額に逸失利益を認めず、慰謝料も通常支払われるべき金額を下回る額を主張していることに対し、私達原告が、障がいの有無で賠償額に差をつけることは障がい者に対する不当な差別であると主張しているものです。
地裁が「争点を絞る」ことを主導し、「争点は損害論」として出発しています。今までの口頭弁論で提出された証拠は、「一般的な自閉症に関する文献」を除くと、原告側が準備したものにより裁判が進行し、原告が主張することに対し被告が反論するという形式で進んでいます。
今回の尋問では、原告として以下の主旨にもとづき、証言しました。
①我が国は法治国家であり、憲法で差別を禁止していること、権利条約という国際条約を批准し、障がいを理由に差別することを禁ずると国際社会に約束していることをあげて、「命と人生の損害賠償」に司法が率先して法律を守る姿勢を示して欲しい。
②そもそも障がいがあるから働くことができないと断定するのは間違っている。合理的配慮があれば充分働くことができる。現実に働いて成果をあげている実例がある。又、障がい者雇用の機会も割合も増えている。
③児童相談所の障害判定は福祉サービスが対象者にとってどの程度必要かを判定するもので、能力や将来の可能性を判定しているわけではない。
④私達の息子は成長途上の伸び盛りで、就労に必要な色々なことができるようになっていた。
対する被告は、以下の2つの骨子で反論し、特に②にもとづき私達被害者の両親に執拗な尋問を繰返しました。
①障害者に対する賠償額に差別を無くすべきという主張は独自の見解である。
②児童相談所の記録にいろいろな問題行動が記載されている。
児童相談所は、息子のような発達障害の相談について、必要な福祉のサービスを検討し、障害の判定などを行います。判定に際し、IQテストの結果を重視し、能力や成長の可能性より、育てていて困っていることのみを聴取し、短時間の観察で判定しているようです。この点について、専門家の方からは、欧米諸国では、障害判定にIQは採用しなくなっているともお聞きしております。
学校の記録では、年齢に応じ、コミュニケーションや社会性が身につき、又、就労に必要な能力も発達していることが記載されていました。
息子の児童相談所の記録には、妻や入所後の施設から聴取した問題行動と短時間の観察及びIQテストの結果程度のことしか記載されていませんでした。
又、記録を読んでいくと藤倉学園の現学園長と職員が東京都に対し最重度加算の助成を受けようとして、児童相談所の心理士の聴取に対し耳を疑うような虚偽の回答をしていることも記録されていることがわかりました。
亡くなった息子が、どんぐりや歯磨を食べたとか、自宅にいたときに妻に対し毎日暴力をふるい怪我をさせていたなど。
息子は自宅にいたとき、他害はなく、母親に対して愛情表現で突くことはあっても、怪我をさせたなどということは一度もありませんでした。近所でトラブルを起こしたこともなく、学校でも聞いたことがありません。学校で他人によく噛みつくお子さんがいて、被害を受けたことはありますが、不機嫌になっても仕返しをするようなこともありませんでした。
自宅にいたときにどんぐりなど全く興味を示したことはなく、食べ物以外の物を口にしたことはありませんでしたし、学校からもそのような報告を受けたことはありませんでした。
藤倉学園の最重度加算の助成要請は、実際に息子を観察した2人の心理士が却下した記録が公文書として残っています。
被告の代理人弁護士は、妻に対し、特に児童相談所の児童期のやんちゃな行動の記録をもとに執拗な尋問を繰り返し、私ども両親を怒らすためにやってきたとしか思えぬ行動に出ました。被告藤倉学園の預かっている障がいの子供に対する姿勢が、その代理人を通してよくわかりました。
原告弁護団の先生方が再主尋問でフォローしていただきましたが、特にベテランの先生が、相手の執拗な尋問を一蹴するあたかも鮮やかなリターンエースのような答弁をされたのがとても心強く感じました。原告の証拠資料として提出した我が国でも屈指の発達医療のドクターの意見書では、学齢期を過ぎれば自閉症特有の問題行動もなくなってくると記載されていました。又、15歳以降になっても成長の伸びしろが極めて大きいとも記載されていました。被告が強調して指摘した幼少時期の息子の問題行動は思春期を過ぎればなくなってくると回答したのです。
原告側は主張に合わせて、著名な学者の方や専門家の方々の意見書と、発達医療専門のドクターや障害者の雇用現場の責任者の方を証人として準備しましたが、被告側は自分達の主張を立証する意見書や証人を準備することができておらず、息子の障害判定の診断にかかわった医師への依頼を試みたようですが断られたとのことでした。
私達は裁判に踏み切ったときから和解はしないという方針で臨んでまいりましたが、改めてその決意を固めました。
今回の期日では、3回目ということもあり、傍聴いただく方がたくさんは望めないと思っておりましたが、応援いただいている皆様方の呼びかけもあり、大勢の方に来ていただくことができました。とても心強く、皆様方のご厚意に深く感謝しております。
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